スペインサッカー最盛の時代は2008年あたりから始まったとみるべきか。スペイン代表は「2008年 EURO(欧州選手権)」「2010年 W杯南アフリカ大会」「2012年 EURO」と主要国際大会を三連覇し、その間クラブレベルで世界を席巻したのもバルセロナだった。
その後は「2014年 W杯ブラジル大会」「2016年 EURO」と二大会連続でスペイン代表が良い成績を収められず、かつての勢いを失った。だがその代わり、ポゼッションサッカーという概念がスペインだけのものではなくなり、世界中で独自にアレンジされつつ実践されている。
本稿ではそんな「ポゼッションサッカー」について考察する。そのサッカーの特徴や、利点と問題点など。
ポゼッションサッカーとは
ポゼッションとは
ボールを保持することをボールポゼッションという。(あるいは単にポゼッションという。)
ポゼッションサッカーとは
できる限り自分たちがボールを保持することを基盤にプレーしていく戦略をポゼッションサッカーという。ボールを保持しショートパス主体で攻撃を仕掛けていくサッカーだ。特徴からみれば、遅攻(相手の守備陣型が整っているところを攻め込む攻撃)が多いサッカーとも表現できる。相手の陣形に綻びができたところでスピードを上げて攻めていくスタイルだ。
ポゼッションサッカーの代表例
バルセロナ、スペイン代表、マンチェスタ・Cなどが代表例。Jリーグでいえば川崎フロンターレだ。
志向する監督の代表例は、ペップ・グアルディオラ、レーブ、ヴェンゲル、キケ・セティエン、パコ・ヘメス、風間八宏、ポステコグルーなど。
実践するには、正確なパス技術やトラップ技術を持つ選手たちを多数揃える必要がある。
ポゼッションサッカーのメリット
魅力的なサッカーであるということ
ポゼッションサッカーを極めれば、スペクタクルで美しいサッカーと評されるだろう。ファンの記憶に残るスタイルだし、商業的にもプラスに働くことが多い。
それを目指すうえで、選手たちも意欲的に取り組めるのもメリットのひとつ。(往々にして極端な弱者のサッカーは、選手からの反発が起こりやすい。)
試合のリズムを支配できる
ボールを保持し続けられれば、試合の主導権を握れる。自分たちのペースで試合のリズムをコントロールできる。ボールだけでなく時間も操ることができるというわけだ。
相手の攻撃の時間を奪うことができる
ボールを保持し続けられれば、相手の攻撃の時間を減らすことができる。相手がボールを持たなければ、攻撃の機会を奪っているも同然だ。
実際に、リード時にボールを回しまくることは無失点に抑える方法論のひとつでもある。相手に追いかけさせて疲弊させる戦略だ。
守備時のポジショニング最適化
ボールを持つことで、常に整ったポジショニングを形成でき、ボールロスト後の即時奪回が可能となる。
ペップ・グアルディオラのバルセロナは、その攻撃力が世界で賞賛を集めたが、多くの識者がその守備の効率性を賞賛したというのは有名な話。
選手の基礎技術を上げる
ポゼッションサッカーに取り組むことでパスやトラップの基礎技術が上がる。逆説的だが、これはカウンターの正確性を高めることにもつながる。
ポゼッションサッカーのデメリット
いつもボールを支配できるとは限らない
ペップバルサやスペイン代表が最強だったのは、ほぼ確実にボールポゼッション率が50%以上になることが保証されていたからだ。シャビ、イニエスタ、ブスケツらから、誰もボールを奪えなかった。
だが多くのチームはそうではない。より強いチームと対戦する際には、ボールが保持できなくなる可能性もある。カウンター戦術がベースとなっていない以上、「想定外にボールが持てなかった試合」では脆くなりがちだ。
カウンターアタックに弱い
往々にしてカウンターアタックに弱い。
ストライカーの質が低ければ、崩しの質を高めても無駄に終わるかも
相手のブロックを崩す方法論を磨いたとしても、ストライカー(仕留め役)の質が低ければ、チームとしてゴールを奪えない。収支があわずに失点だけがかさむ場合も。
ポゼッションそのものが「目的化」してしまいがち
「どのスペースを狙うか」「そのスペースを開けるためにどのような動きが必要か」が曖昧であれば、ただただボールが回ることに終止する。相手の1列目の突破したあとに、どのように崩すかが選手任せになっているチームにありがちだ。
個人で相手を剥がして勝負を仕掛けられる選手や、相手のプレスを受けていてもキーパスを通せる選手がいればいいが、いなければチャンスは創出できない。チームとして狙いをもって崩しにいかなければならない。
どこを攻略しようとしているのか、誰をフリーでボールを受けさせようとしているかが観ていて感じられれば、それは良質なチームといえるだろう。
高度なポゼッションサッカーに必要なこと
ポジショニングの重要性
ポゼッションサッカーを実践する上では、ポジショニングは特に重要。常に複数のパスコースを作る優れたポジショニングをとる必要がある。(常に三角形、四角形の関係を作れるように。)
優れた戦術理解度、状況判断能力がある選手を多数揃えなければならない。あるいは、チームとしてそのような設計がなされている必要がある(ポジショナルプレー)。
相手の陣形を動かす
ただ単にボールを回すだけでは意味が無い。相手の陣形を動かすことが必要だ。
バックパスやサイドチェンジを効果的に使い、中・外・中・外とボールを動かし相手の守備を広げさせるプレーが求められる。ボールを持っている際に、パスを回して相手を引き寄せたり押し込んだりして、相手のDFラインと中盤ラインを開かせて「深さ」を作る。普遍的コンセプトは相手選手を誘い出してパスを出すことだ。
攻撃の「スイッチ」を入れる
攻撃の「スイッチ」を入れなければ、チャンスは作れずゴールは奪えない。スイッチを入れるべきタイミングはチームによって異なるが、一般的には後方から縦パスが入った時だろうか。あるいは、パスの出し手が顔を上げてボールを保持している時に、ボールを持っていない選手が動き出すタイミング。パスがピタリと合えばDFの裏をとれる。
攻撃のスイッチが入りそうなタイミングをたくさん作れているチームは強い。それを目指し、監督はいくつかのパターンをチームに仕込むべきだ。相手にとって嫌な状況(エリア)でボールを持つことを目的に、ボールを循環させたり、ポジショニングを旋回させる必要がある。
高い守備意識と守備能力
ポゼッションサッカーを思考しているチームは、ボールを奪われた瞬間に即座に奪い返しにいく「ハイプレス」も合わせて志向している場合がほとんどだ。
パスを回しながら攻撃面で数的優位を作ることは、守備面でのメリットもある。その密集地域でボールを奪われても、そのまま多くの選手がディフェンスに向かえる。高いポゼッション率を実現するチームは、ボールロスト後のディフェンスの質も良い。常に整ったポジショニングが形成されているからだ。