Jリーグの外国人枠を撤廃すべきかどうか、ここに来て議論が急速に深まっている。
イニエスタ加入直後に、Jリーグは外国人枠撤廃を本格的に検討しはじめたようだ。「イニエスタがJを動かした!」と話題となり、それについては公平性の観点から言って疑問が残るが…。そうはいっても外国人枠の規制緩和はこれまでも検討すべきトピックではあった。
DAZNとの大型契約や、楽天のヴィッセル神戸への投資などからみてもわかるとおり、グローバル企業から見ても、Jリーグは魅力的なコンテンツと認識されているようだ。だからこそ外国人枠の撤廃は、喫緊で議論すべき、かつ、継続して議論し続けるべきトピックであることは間違いないだろう。
目次
Jリーグの外国人枠撤廃の是非を考察
現状のJリーグ外国人枠をおさらい
①登録可能:5名以内
②ベンチ入り可能:3名+AFC加盟国1名
※Jリーグ提携国(タイ・ベトナム・ミャンマー・カンボジア・シンガポール・インドネシア・マレーシア・カタール)の国籍を持つ選手は、前2項において外国籍選手ではないとみなす(実質日本人選手扱い)。
もしも外国人枠を撤廃(あるいは急激に緩和)したら…
おそらく想定されるであろう現象は以下の通り。
①優秀な外国籍選手が増える。
②日本人選手とほぼ同格、かつ、より安い外国籍選手が増える。
③日本人選手が出場しにくくなる。
④「全員が外国籍選手」というのは非現実的か(現実的な範囲で収まる)。
外国人枠撤廃のメリット
優秀な外国人が増えることで、リーグが強化される
極端な例で言えば、ポドルスキやイニエスタのような世界レベルの外国人が増える。そうでなくとも、南米・東欧の外国人選手もおそらく増えるだろう。優秀な外国籍選手が増えることで、リーグが強化される点はメリットだ。
チーム内のレギュラー争いの熾烈さが増すし、外国人選手への慣れや耐性がつく。試合のレベルそのものが上がれば、コンテンツとしてのJリーグの魅力アップにも繋がりそうだ。
日本人選手が厳しい環境で競いあえる
想定される現象として、日本人選手が出場しにくくなるだろう。だが逆に言えば、そんな厳しい環境で生き残った選手はたくましい。厳しい環境で競いあうことで危機感やハングリー精神の向上が期待される。
フロントの移籍ノウハウの蓄積
外国人枠が撤廃されたら、優秀な外国籍選手の補強を怠ったクラブが弱くなるだろう。各クラブの外国籍選手獲得が一気に活性化し、交渉ノウハウなどが蓄積されることが予想される。
外国人枠撤廃のデメリット
日本人選手の出場機会減少
デメリットの最たるものが、日本人選手の出場機会減少だ。選手は試合に出場してなんぼなので、選手が育たなくなってしまう。(特にGKは厳しいのでは?)
多くの日本人選手が職がなくなる危機に瀕しまうと、「Jリーガーには夢がない」と認識されてしまう恐れもある。高卒ルーキーがJクラブ加入へ二の足を踏んでしまわないか…。
無名な南米・東欧・韓国人ばかりが来る?
世界レベルの有名な外国人ばかりが来れば、興行面でも好影響を及ぼすだろう。だが、外国人枠を撤廃したところで、各クラブの資産が増えるわけでもない。現実的には多くのクラブにおいて、無名な南米・東欧・韓国人選手が増えることになるだろう。
これまでのJクラブの編成方針として一般的だったのは、FW・司令塔・GKなどの重要ポジションを高年俸の外国籍選手とし外国人枠を埋め、守備陣や黒子役は標準年俸の日本人で賄うというもの。「ジダンネス、パボンネス」に似た補強方針が多かった。外国人枠撤廃により、標準年俸でも(あるいはより安い年俸で)外国籍選手を雇いだし、黒子役も外国人だらけとする方針に変わるかもしれない。
つまり”そこそこの外国人”に、日本人選手がポジションを奪われてしまう。(リーグのレベル向上が想定ほどでない可能性がある。)
ACLとのレギュレーションの違い
ACLにも外国人枠がある。現状では、「3人+アジア枠1人」となっている。そのため、Jクラブが大量の外国籍選手を抱える編成になったとしても、ACLではレギュレーションの違いによりベストメンバーで戦えなくなってしまう。
外国籍選手ばかりで応援できるか?
ファン目線の意見。
対案
「外国人枠の撤廃」以外(に加えて)の対案をいくつか考察する。
カテゴリ毎に外国人枠に差をつける
J1は外国人枠の規制を撤廃し、J2・J3の下位カテゴリは規制を残すことで、J2・J3を日本人選手の受け皿とすればよいという案。
ただし、これには問題がある。Jリーグには昇格・降格制度があるため、中立性が損なわれてしまう。
・降格クラブは、チーム編成を大幅に変えることを強いられる。
・昇格クラブは、チーム編成を大幅に変えない限り、”外国人枠が無いというメリット”を享受できない。
日本人プロテクト枠
「日本人選手を○○人以上保有していれば、それ以外のすべての選手が外国籍選手でもいい」という、ブンデスリーガも採用している方式だ。考え方としては「外国人枠の拡大」と似ている。
日本人選手を起用することへのインセンティブ保証
オーストリアリーグでは、自国籍選手を起用すれば、放映権料の配分率が上がるというルールを設けている(若手選手だと更に率が上がる)。この考え方を採用し、日本人選手を起用することへのインセンティブを設定すれば、日本人選手が起用されなくなることはないだろう。
外国籍選手には最低年俸を定める
「外国籍選手の年俸は、○○○○万円以上(あるいはクラブ利益の○%以上)でなければならない」というような、外国籍選手に最低年俸を定める案。これにより、「日本人選手とほぼ同格だが、給与が安い」「日本人選手より少し上手くて、少し高給取り」という選手とは契約できなくなる(「ジダンネス、パボンネス」は守られる)。
より優秀な外国人選手が増えることは保証され、リーグのレベルアップに繋がる。
「大陸ごとに枠数を決める」「同大陸(同国)からは最大○人」という規制
Jリーグにおいて現状でもかなり多い、韓国人選手やブラジル人選手で溢れ返ることを防ぐ案。これにより、外国籍選手の多様性が保証される。
GKのみ規制
現状では、「日本人GKのレベルは低い」というのが一般認識となりつつある。
そこで日本人GKの出場機会だけは特別に保証する目的で、「GKのみ外国籍選手との契約不可」としてもよいだろう。あるいは「外国籍のGKは外国人枠2枠分(2名分)と扱う」などの折衷案か。
筆者の意見:外国人枠完全撤廃は反対
筆者の意見は「いきなり撤廃は極端なので、徐々に枠の拡大(緩和)でよい」というもの。
規制というのは、規制対象がその範囲内でどのように振る舞ったとしても許容できるギリギリのラインに定めるもの。「全員外国籍選手で良いのか?」と問われ「NO」であるならば、主張は「枠の拡大で十分」とすべきではないだろうか。
「枠の拡大」では不十分で、「撤廃」でなければならない理由が見つからない。