サッカーにおける主役は選手でありチームである。戦いの舞台は105×68mのピッチだが、時としてスタジアムの雰囲気そのものが試合に影響をあたえる場合もある。
ブーイングはその一例だ。観客があるプレーに対して不満や怒りを抱くとブーイングは発生する。大多数の観衆がブーイングするような状況であれば、スタジアムの雰囲気は異様なものとなる。
本稿ではブーイングについて取り上げる。サポーターはなぜブーイングするのか。その理由を分類してみると、色々な意味合いがあることがわかる。前述した不満や怒りのブーイングでスタジアムが包まれれば、選手は多少なりとも萎縮するだろう。あるいは選手にとってあまり気にならないであろう慣習化したブーイングもある。ブーイング=不満ではなく、観客の意思表示、あるいは観戦の楽しみかたのひとつと捉えることもできそうだ。
目次
サポーターがブーイングをする理由
古巣対戦となる相手選手に対して(特に退団の印象が悪い選手)
たいていの場合、古巣対戦となる相手選手に対してはブーイングする。どの国でも一般的でサッカーにおける常識のようなものだ。
過去の在籍選手といっても、退団のしかたによってサポーターの印象はまったく違う。円満に退団した選手や、戦力外として出ていった選手に対しては、それほど反発も大きくないためブーイングは起こりにくい。起こったとしても叱咤激励の意味合いに近い。
一方退団の印象が悪い選手に対しては、ブーイングの激しさも増す。例を挙げれば、2000年7月にバルセロナから宿敵レアル・マドリードに移籍したフィーゴ。主将であったことと、「移籍しない」と発言してすぐに金のために移籍したことがサポーターの怒りを買った。カンプノウには殺意に満ちたブーイングが轟いた(CKを蹴る際には豚の頭が投げつけられた)。
チームを勝たせようとして
より重要な試合では、相手チームがボールを持つだけでブーイングするケースもある。すべては応援するチームを勝たせたいという意志に基づくブーイングだ。
Jリーグにおいては、浦和レッズのサポーターがこの種のブーイングはうまい。2007年のACL準決勝城南戦2ndレグのPK戦の場面は圧巻だった。
因縁のある(過去になにかしでかした)相手選手に対して
古巣対戦でなくとも、なんらかの因縁のある選手に対してはブーイングが起こることがある。
例は多数あるが、過去に悪質なファールで自軍選手に怪我をさせた選手、人種差別騒動などを起こした選手(テリー、スアレス)、二重国籍者で代表に他国を選んだ選手(ジエゴ・コスタ)、ダイブや「神の手ゴール」などミスジャッジに絡む因縁を起こした選手など。
悪質/挑発的なプレーをした相手選手に対して
悪質なファールで自軍選手に怪我をさせた選手は、その次の局面から、ボールを貰う度にブーイングを受ける。
また、ヒールリフトのような挑発的な舐めたプレーをした選手に対しても、ブーイングをする場合がある(ブラジルでは楽しいプレーとして許容される文化があるが、欧州では批判の対象となる)。
不満の残るジャッジをした審判に対して
レフェリーに対してのブーイングも一般的。PKやレッドカードに関する微妙なジャッジでホームチーム側が損をすると、スタジアムはブーイングに包まれる。
お決まりの相手選手に対して
お決まりの選手に対してブーイングすることが通例となっているケースもある。
例えばラ・リーガでは、C・ロナウドがシュートを外す度にブーイングするのが当たり前。プライドが高くエゴが強い一流選手を茶化す意味合いがあるのだろう。ロッベンやスアレスに対しては、ペナルティエリアで倒れる度に「ダイブだろう!」とブーイング。マンチェスター・Cに移籍した直後のスターリングに対しては「金の亡者」とブーイング。
これら例では、スタジアムの雰囲気はそれほど異様なものにはならない。ブーイングを浴びる選手もおそらく慣れっこだろう。
政治的理由で
スペイン代表におけるピケは、自国サポーターからブーイングを受けている。カタルーニャ地区の独立運動を支持するような言動があるためだ(正確には選挙が行われることを支持しているに過ぎないが)。
またEURO・欧州選手権2016では、多くの試合で政治的ブーイングが鳴り響いた。トルコ代表は国歌を歌っている時点で大ブーイング。フランス対ドイツの重要な一戦では、エジルとエムレ・ジャン(いずれもトルコ系選手)がブーイングの対象となっていた。パリ同時多発テロ事件を受けて、イスラム国家であるトルコに対しての複雑な感情があらわになったためだ。
ライバル(宿敵)クラブに在籍経験のある相手選手に対して
例えば今季のチェルシー対アトレティコ・マドリードの試合では、チェルシーのモラタに対してアトレティコサポーターはブーイングをしていた。
アトレティコサポーターにとって、モラタはブーイングの対象とすべき存在だ。モラタは宿敵レアル・マドリードに在籍経験があり、下部組織出身でもあるためだ。
不甲斐ない選手、チームに対して
今季、レアル・マドリードの本拠地サンティアゴ・ベルナベウでは、マドリディスタがベンゼマに対してブーイングを浴びせている。今季のベンゼマはゴール数が極端に少なく、決定機逸が目立つからだ。
欧州では特に、ホームチームのサポータが自軍選手に対してブーイングするシーンは目立つ。味方だからいつでも応援するわけではなく、厳しいときは厳しい。DFやGKも、ポカで直接的に失点に絡めば即ブーイングの対象となりうる。
ちなみにJリーグにおいては、自軍選手に対してのブーイングの例はかなり少ない。ただし、シーズン終了後の社長挨拶でブーイングが鳴り響くことはしばしばある。
(価値観の違いから)組織や協会などに対して
2016-17シーズン、マンチェスター・CサポーターはCLのアンセムに対してブーイングをしていた。2014年にFFP規定違反として罰則を受けており、この決断を不当と考えてUEFAへの抗議の意味合いでブーイングしていたのだ。
Jリーグでは、Jリーグチェアマンが挨拶をする際にブーイングが起こることはしばしばある。あるいは、試合前にアイドルグループのパフォーマンスがあったりすると、「場違いだ」「興味がない」という手厳しいブーイングをすることもある。