バルサ化するマドリー。マドリー化するバルサ

近年の欧州サッカー界を席巻するスペイン・リーガ勢のなかでも二強と呼ばれる偉大なクラブがある。ご存知レアル・マドリードとバルセロナだ。前者は史上最も成功したクラブ、後者はここ10年で最も成功したクラブと評して違いないだろう。

この2クラブにはそれぞれ独自の哲学がある。両者の哲学は対極に位置するといってもいい。

ところがここ数年、両クラブは普遍かと思われた哲学に反する動きをみせている。レアル・マドリードはどこかバルセロナっぽくなり、バルセロナはレアル・マドリードっぽくなっている。相容れないクラブ同士であるはずだが、皮肉なことに両クラブはそれぞれのフィロソフィーの中間点に向かっているのかもしれない。

移籍市場で静観。カンテラーノが徐々に増えるレアル・マドリード

近年下部組織出身選手が増えている

レアル・マドリードといえば、金に糸目をつけずに世界的な名選手を獲得する金満クラブのイメージが根強い。第一次フロレンティーノ・ペレス会長時代には、莫大な資金力をベースに驚きの補強を繰り返し、移籍市場を賑わせた。フィーゴ、マケレレ、ジダン、ロナウド、ベッカムなどの獲得は、銀河系軍団の呼称に恥じぬものだった。その後は、行き過ぎた補強方針が空回りし崩壊した経験から多少落ち着いたものの、補強により世界的名選手をずらりと揃える方針に大きな変化はなかった。

しかし、現監督であるジダン政権になった2016年1月以降、主力クラスの選手はひとりも補強していない(最も主力に近かったのはモラタだが、結局スタメンの地位を維持できずにクラブを去った)。ここ数年の移籍市場でもおとなしく、余剰戦力の売却や将来への投資の意味合いを持つ補強に留まっている。

特に近年のレアル・マドリードの傾向として、下部組織出身選手(カンテラーノ)が多い。今季の陣容でいえば、カルバハル、ルーカス・バスケス、ナチョ、カゼミーロ、カシージャ、マルコス・ジョレンテ、マジョラル、アクラフ・ハキミなどがカンテラーノだ。既に退団したモラタ、ヘセ・ロドリゲス、マリアーノなども下部組織出身だった。

ただし、詳しく後述するバルセロナのカンテラーノ全盛期と比べると、下部組織から直接トップチームに昇格した選手は少ない。生え抜き一筋のカンテラーノはナチョだけで、多くが他クラブへの移籍経験がある。レアル・マドリードでは常に勝利が求められるため、若くて経験がないうちは出場機会が見込めない。他クラブで経験を積み、レンタルバックや買い戻しオプション行使によって復帰するというケースがほとんどだ。ペップ時代のバルセロナが異常だっただけで、メガクラブの若手登用方針としては現実的である。

いつまでも金満ではいられないレアル・マドリードの事情

ではなぜレアル・マドリードは下部組織出身選手を重用しだしているのか。理由はいくつか考えられる。

ひとつは、他国の金満クラブを警戒してのこと。当代最恐の金満クラブはパリ・サンジェルマンであり、マンチェスター・ユナイテッドも移籍市場では派手に動く。プレミアリーグのその他数クラブも資金面では競合しうる。いくらレアル・マドリードといえど、いつまでも世界トップの金満クラブではいられない。その点、下部組織が充実していれば補強コストが節約できる。クラブへの忠誠が高ければ、高すぎる年俸を要求したり、高給を求めてクラブを去るケースも減るだろう。

また、バルセロナの成功も影響を与えたかもしれない。クラブとしてプレーモデルを確立し、ユース年代から一貫して美しいサッカーを標榜するバルセロナのサッカーは世界に影響を与えた。スペイン代表の黄金期も、シャビ、イニエスタ、ブスケツらに支えられたものだ。レアル・マドリードとしてはプライドを刺激されたはずだ。「世界最高のクラブ」を名乗りたければ(補強だけでなく)ピッチにおける哲学も磨かなければならない。

勝たせる選手は一握り

とはいえ、レアル・マドリードは常に勝利を求められるクラブだ。下部組織出身選手を重用することはいいとしても、バランスを見失ってはいけない。

そもそもチームを常に勝利に導く選手は一握りだ。簡単には見つからない。現在の陣容をみても、カンテラーノでトップオブトップを極めた「勝たせる選手」はカルバハルくらいだろう。現在CL二連覇中だが、クラブを高みへ導いたのはC・ロナウド、モドリッチ、クロース、S・ラモスのような面々だ。彼らはいずれクラブを去るが、代わりをすべて下部組織出身選手でカバーできるはずもない。金を出すべきどころでは出さないと、勝てないグッドチームになってしまう。投資すべきタイミングでは、これまで通りドラスティックに投資すべきだろう。

世界最高のカンテラが枯渇?高額補強が目立つバルセロナ

優秀過ぎたカンテラーノたち。築いた黄金期

一方のバルセロナについても変化が感じられる。

バルセロナの黄金期といえば、なんといってもペップ・グアルディオラ政権時だろう。この時は、ラ・マシア出身のカンテラーノたちが一時代を築いた。メッシ、シャビ、イニエスタ、プジョル、ピケ、ビクトル・バルデス、ペドロなどの錚々たる面々が、クラブ哲学の結晶ともいえる美しいサッカーを体現した。ありとあらゆるタイトルを取りまくり、クラブのあり方も含めて世界中で絶賛された。

激減するカンテラーノ、陣容は補強でキープ

だが、カリスマであるペップが去って以降、下部組織出身選手の割合は少しずつ減っていった。スタメン級の選手たちのレベルが高すぎて、ポジション争いに敗れて去っていったカンテラーノの例は枚挙に暇がない。現在の陣容で、ペップ政権以降トップチームに定着した下部組織出身選手は、ジョルディ・アルバとセルジ・ロベルトの2選手のみだ(デニス・スアレスはカンテラーノではないが、バルセロナBには在籍経験あり)。

下部組織から良質な選手が輩出されなくなったことと並行し、高額な補強も目につく。ネイマール、スアレス、ウムティティ、デンベレ、コウチーニョなど、一級品のタレントたちを補強によって補っている。いまや厳しすぎるスタメン争いに加われるのは、選手として完成された外様選手だけとなっている。

補強は悪ではないが、いまのフロントのままでは将来が懸念される

もちろん補強をすることは悪ではない。レアル・マドリードに補強が許されてバルセロナには許されないなどと言うつもりはない。不安なのは、バルセロナのフロント陣である。移籍市場における振る舞い、あるいは契約における振る舞いが下手なことが気がかりだ。

例えば、バルセロナは2017年8月にデンベレを、2018年1月にコウチーニョを獲得した。現在両者とも、イニエスタ、ブスケツ、ピケ以上の年俸を貰っている。年俸はチーム内ヒエラルキーに準じておらず滅茶苦茶だ。まだクラブに何も貢献していない選手に対しての高すぎる年俸は、内紛のきっかけにもなりうる。イニエスタ、ブスケツ、ピケはカンテラーノである忠誠心があるからこそ表面化していないが、すべてが外様(補強した選手)であればすでにチームが崩壊している可能性すらある。

ちなみにこの点に関してはレアル・マドリードに一日の長がある。2017年の夏にムバッペの獲得に近づいたが、要求する年俸が高額すぎたために見送った。レアル・マドリードのような巨額の資金で有名選手を買い漁る方針は、一見単純かつ簡単なようで実は難しい。フロントが学ばぬまま、メッシ、イニエスタ、ブスケツ、ピケらがチームから去れば、これまでのバルセロナにはあり得なかった内紛や自滅による崩壊の可能性もあり得るかもしれない。

両クラブとも、いまはまだ変化の兆候が出ているにすぎない

今後数年のうち、レアル・マドリードとバルセロナはどのように変化していくのだろうか。両クラブとも勝利が求められる。目先の結果も求めつつ、時代の変化に対応していかなければならない。

本稿で指摘した「バルサ化するマドリー。マドリー化するバルサ」というのはまだ兆候にすぎない。

レアル・マドリードについては、負けが混んできたら、豪腕ペレス会長の鶴の一声であっさり高額補強の方針に逆戻りする可能性もある。下部組織を含めての成功には長期的視点が不可欠で、それをどこまで維持できるかはわからない。

バルセロナについても、まだ哲学が失われたと断じるには早い。シャビやイニエスタなどの一時代を築いたカンテラーノが指導者に復帰すれば、そのタイミングでラ・マシアに再び黄金の光が指すことはあり得る。

いずれにしても、重大な経営判断が迫られるタイミングは数年先に迫っている。メッシとC・ロナウドがクラブを去った後も両クラブは世界の頂点の座を守れるだろうか。この先10年でどう変化するのか見ものだ。

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